2019年2月19日火曜日

バイオ製剤を投与中に(風疹などの)生ワクチンを打ちたい場合はどうればいいのか?

いつも当院に患者さんをご紹介いただき、ありがとうございます。バイオ製剤を投与中に(風疹などの)生ワクチンを打ちたい場合はどうればいいのか?というお問い合わせを某先生からいただきましたので、皆様とシェアしたいと思います。

不活化ワクチンに分類される、インフルエンザワクチンは、バイオ製剤と基本的に関係なく、投与しても良いということに異論はないと思われます。

ところが、生ワクチンはどうでしょうか??
現在、抗体価の低い人に対して、風疹ワクチンの投与を政府が呼びかけています。品切れも多いようです。

問題点として、風疹ワクチンは生ワクチンですので、バイオ製剤を使用中は、投与できません。いったん中止する必要があります。

特に妊娠前の女性は、バイオ製剤投与前に(要するに妊娠前に)先に風疹ワクチンを投与しておくことが望ましいかもしれません。では現在投与中の場合はどうなのか・・・・乾癬のバイオ製剤は、投与後、どれだけ間隔を開ければ生ワクチンが投与できるのか?これは、結論から言うと、あまりエビデンスが無く、良くわからないと言うことになりますが、一斉に全社に問い合わせを行ったところ、バラバラの結果が返ってきたので掲載しようと思います。

Q: バイオ製剤投与後、どれだけ間隔を開ければ生ワクチンの投与が可能ですか?

要するに半減期を考えて間を開ける(投与中は必ず避ける)ということになっているようですが、どれも、強いEBMは、ありません。半減期が短いという意味では、ヒュミラやルミセフといった投与間隔の短い製剤のようが、生ワクチン投与まであまり待たなくても良いという意味で、むしろ有利である可能性がありそうです。なお、一般論的に、ACIP(米国CDCの予防接種諮問委員会)は、免疫抑制剤治療後3ヵ月間は生ワクチンの接種を控えることとなっているようです。


オテズラ 投与したままで良い(JAAD 90:1170-81,2024)
ソーティクツ 1日 (JAAD 90:1170-81,2024)
シクロスポリン 開けなくて良い(JAAD 90:1170-81,2024)
ステラーラ 15週間(ヨーロッパ添付文書による。日本では記載なし)
トレムフィア 12週間(ヨーロッパ添付文書による。日本では記載なし)
スキリージ 21週間(ヨーロッパ添付文書による。日本では記載なし)
トルツ 基準なし
ルミセフ 基準なし(血中濃度は1ヵ月で低レベルと予想できる)
コセンティクス 基準なし
ヒュミラ 6週間(European Evidence-based (S3) Guidelines)
レミケード 3〜6ヵ月 (Am J Gastroenterol 105:1231-1238, 2010)
デュピルマブ 3ヶ月 (治験実施計画書の記載による。これを設定した理由はMMWRのRecomendationで高容量ステロイドを2週以上投与した患者に生ワクチンを投与するとき、ステロイド中止後3ヶ月待てとあることによるらしい)


Q: 生ワクチン投与後、どれだけ待てばバイオ製剤が投与できますか?
これはどのバイオ製剤でも同じ答えになるはずが・・・そうでも無いようで、ばらばらの答えが返ってきました。なお、一般論的に、ACIP(米国CDCの予防接種諮問委員会)は、生ワクチン接種のタイミングについて免疫抑制剤治療導入の2週間以上前に生ワクチンを接種すべきとあります。

オテズラ 投与したまま (JAAD 90:1170-81,2024)
ソーティクツ 2-4週(JAAD 90:1170-81,2024)
シクロスポリン 2-4週(JAAD 90:1170-81,2024)
ステラーラ 2週間(ヨーロッパ添付文書による。日本では記載なし)
トレムフィア 2週間(ヨーロッパ添付文書による。日本では記載なし)
スキリージ 4週間(ヨーロッパ添付文書による。日本では記載なし)
トルツ 12週間(海外臨床治験における除外基準)
ルミセフ 4週間(海外臨床治験における除外基準)
コセンティクス 6週間(海外臨床治験における除外基準)
ヒュミラ 2〜3週間(European Evidence-based (S3) Guidelines)
レミケード 3〜4週間 (Am J Gastroenterol 105:1231-1238, 2010)
デュピルマブ 規定なし(メーカーの回答はMMWRのRecomendationで2週間になっているというものであった)

見事にばらばらになりましたが、基本的にはどれもこれも、エキスパートオピニオンであり、強いエビデンスはまだ無いのが現状のようです。なおグローバル化に伴い、添付文書PMDA審査報告書に記載の無い安全情報は入手するのが難しくなっている現状に伴い、上記の答えは担当MSL/MRによって違う答えが返ってくる可能性も高く、私の論文解釈と先生の論文解釈が違うかもしれませんし、またそもそも根拠が欧米の知見で本邦データではないものが多いため、諸先生方におかれましては各自で問い合わせ・ご判断のうえで対応していただけますよう、お願い申し上げます。

またJAK阻害剤も同様に生ワクチンの投与ができません。
例えばリンヴォックの治験でのPsAの除外基準では4週間以内の生ワクチン接種、アトピー性皮膚炎治験8週内にワクチン接種がないことが除外基準だったので、適応疾患によってエビデンスが異なるという、なかなか理解しがたい状態になっています。

なお日本の『乾癬における生物学的製剤の使用ガイダンス(2022年版)』では治療中は生ワクチン投与を行わないという記載だけがあります。

2024/05/24 updated